今回は独占禁止法をぶち破って市場独占で大儲けできちゃう特許について説明する回なのです。
お金持ちになるぞ!

ああ、金が欲しい!! 金が……欲しい!!



急にどうしたんですか?



金さえあれば、なんでも手に入るんだ! 黄金のチュールや、ダイヤモンド鼠おもちゃ、バベルの塔のようなキャットタワー



いや、そのタワー崩壊しますから!



なにより、この面倒くさい飼い主から独立できるにゃ



…まぁ、いいでしょう。それでは新発明で特許を取って大儲けなんてのはどうです?
新発明ビジネスで大儲け!
特許とは、「ある発明について生産や販売を独占できる権利」のことです。権利を持つのは発明者または、その権利を譲り受けた人(または企業)になります。
つまり、新しい発明をした人や企業が、その発明を独占的にビジネス化できるわけですね。
通常、ある企業が市場を独占することは禁止されています。独占禁止法ですね。なぜ禁止されているかというと、ある商品が1社の独占状態になると、その1社が自由に価格を付けられることになるので、あまりにも儲かりすぎてずるく、消費者も値段が高くて困ってしまうからです。
ところが、特許製品だけは別。特許は独占禁止法の対象外(独占禁止法21条)です。
それどころか、特許製品は法律で独占が保証されちゃいます(特許法68条)。国家公認の大儲けチートみたいなものなのです。
価値のある発明で特許を取得すれば、大きな利益を得ることができます。ただし、特許を持っているだけではだめ。特許というのは「使う」ことによって、その効果を発揮するのです。具体的には以下の3つの方法がありますよ。
- 自分で独占的にビジネスを行う(自社実施)
- 特許を他社にライセンスする
- 特許権を売却する
それぞれについて、事例を紹介しつつメリット、デメリットを説明していきますね
自分で独占的にビジネスを行う
一つ目の方法は、「自分でビジネスを行う」です。起業したり、クラウドファンディングしたりして、自分自身で特許製品を製造・販売する方法ですね。
特許権とはその発明を独占できる権利ですから、市場でその商品を作っているのは自分だけ、ということになります。競争相手がいないので、価格競争に巻き込まれることがありません。市場独占で十分に利益を上げる金額をつけることができるわけですね。



でも、実際に大儲けできるのかにゃ?



できますよ!独占による圧倒的利益が得られるのですから
かつて日本企業の電気メーカは、最先端技術を特許で保護し、多くの製品で世界のトップシェアを占めていました。その中でも花形といわれたテレビについて、見ていきましょう。
昔はテレビはiphoneような高級品で、たくさん儲かったのです
みなさんはテレビがかつてどのくらい高かったか? そして今どのくらい値段が下がったか、ご存じですか?
1953年に発売差されたシャープの国産第1号のテレビ「TV3-14T」は175,000円。当時の初任給が1万円くらいですから、今の基準でいうと300万円以上でしょうか? まぁ、これは極端な例ですが。
時を経て、私が青春時代を過ごした今から2000年当時でも、テレビは10-20万円くらいしたと思いますが、PCやスマホで動画が見れなかったこともあり、みんな毎日見ていました。このころから、テレビは一家に1台はありました。むしろ、1部屋に1台の時代になったといわれていたくらい、たくさん売れていたのです。
いまでは考えられないことですが、本来はテレビは最低でも10-20万円くらいでも、たくさん売れるんです。
実際2000年前後の日本のテレビメーカーは儲けまくっていたのです。それが今は、安いものでは2万円くらい。つまり、テレビの価格は25年間で10分の1になっています。


引用元;Wiki https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93
なぜこんなに安くなったかといえばそれは価格競争がおこったからです。



でも、なぜ価格競争になってしまったのかにゃ?



大きな原因の一つが特許の期限切れなのです
テレビの値段が下がった直接的な原因は韓国や中国など、より大きな資本と安い人件費(2000年代は安かった)でテレビを作る企業が出てきたからです。ではなぜそのようになってしまったのか。
それは特許の期限切れです。特許の存続期間は出願から20年。そのあとは効力を失うのです。
ここで、カラー液晶テレビの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
最初のカラー液晶テレビ
液晶カラーテレビの特許は1970年代から出願されており、1980年代以降に特許出願が本格化します。商品の発売時期で見ると、1984年、現セイコーエプソン社から、液晶ポケットカラーテレビ「ET-10(米国市場ではEpsonelf)」。世界に先駆けて商品化されました。


引用元 セイコーエプソン:https://corporate.epson/ja/about/history/milestone-products/1984-8-et10.html



第1弾がいきなりポケットテレビなの?



液晶は大きな画面にするのが難しかったので、あえて小型のものでいったのです。
最初のカラー液晶テレビは大型化できないことを、逆手にとった携帯テレビでした。
画面が小さい代わりに「どこでも見れる」という付加価値を付けた製品でした。ソニーのウォークマンに似た発想ですね。見事な発明だと思います。
その後、1988年にシャープによって「テレビ用14インチTFT液晶ディスプレイ」が発売されました。この液晶テレビはそれまでのブラウン管テレビとは仕組みが根本的に違い、格段にコンパクトになっていました。


引用元 シャープ:https://corporate.jp.sharp/corporate/info/history/only_one/item/t22.html
それまでのブラウン管テレビと比べると、なんて薄く省スペースなのでしょうか。画面もフラットになって美しい!! 本体に比べて画面も大きくできますね。こんなに良い製品なら高く売れて当然です。
実際、シャープは液晶テレビで大きな利益を上げます。
だが、しかし!! それもいつまでもは続かなかったのです。
そのあとも液晶テレビの技術はどんどん進み、たくさんの特許出願がされるのですが、基本的な技術は1980年代までに確立していたことになるわけです。それから20年がたった2000年代には重要な技術に関する特許が次々に期限切れを起こしていきます。参入障壁が低くなり価格競争が起こることは必然です。



特に韓国や中国など人件費の安い国にやられました
シャープは2005年には880億円もの利益を上げていましたが、2012年には3760億円の赤字におちいっています。
特許による参入障壁がいかに大きな利益を生み出していたかがわかりますね。
なお、液晶テレビをはじめ高度な電気機器は数百から数千の特許からなっており、そのすべて1社で持っているわけではありません。液晶テレビもシャープだけが作っていたわけではありません。実際には日本企業の数社が世界のシェアを独占していました。
さて、もう少し、別の例も見てみましょう。
特許があるので薬の値段は高いのです
特許の有無での価格比較としては、先発医薬品とジェネリック医薬品の比較もわかりやすいです。ジェネリック医薬品とは先発医薬品の特許切れ後に発売する医薬のこと。その価格も独占価格から、市状競争価格へとシフトしていきます。
一説には先発医薬品とジェネリック医薬品の価格差は1.2倍から3倍程度といわれています。以下はその一例です。青色が独占時の値段です。


引用元;どれくらい安くなるの?|ジェネリック医薬品 | ダイキン工業健康保険組合
特許で独占できていた間は、金額は倍以上。いかに特許がお金になるかがわかります。価格を2倍にできれば利益は3倍、4倍、それ以上になる可能性もあるのですから。



薬が高いのは嫌だけどにゃ~



儲かるからこそ多額の研究費を出せるのですよ
こちらも、特許による参入障壁がいかに大きな利益を生み出していたかがわかる例と思います。
自社で事業を実施するメリット・デメリット
特許で保護されたビジネスが大きな利益を上げることはわかってもらえたかと思います。しかし、自社で事業を実施するのはデメリットもあります。
自社事業実施のメリット・デメリットを上げると以下の通りです。
メリット
- 最大利益が大きい
デメリット
- 製品製造の初期コストが必要になる
- 販路開拓を自分で行う必要がある
自分で実施する以上、うまくいったときの利益は総取りですから、利益は最も大きいです。その一方で、自分自身で初期投資、販路開拓を行わなければなりません。当然うまくいかないリスクもあります。
特許を他社にライセンス(レンタル)すれば楽ちん?
特許は、他社に利用を許可し、その対価としてライセンス料(ロイヤルティ)を受け取ることもできます。漫画や音楽の著作権料のようなイメージです。この方法であれば、自分で製造・販売する費用やリスクを負うことなく、安定した収入を得られる可能性があります。
他社へライセンスした有名な特許の例としてはカップラーメンの特許があります。
カップラーメンの元となるチキンラーメン(どんぶりを別に用意するタイプの即席ラーメン)は1958年に発売されました。


画像引用元 日清食品HP:NISSIN HISTORY | 日清食品グループ
また、カップラーメンは1971年に発売されました。


画像引用元 日清食品HP:NISSIN HISTORY | 日清食品グループ
いずれも特許製品であり、発明者は日清食品創業者の安藤百福氏です。
安藤百福氏は、一つの企業が技術を独占するのではなく、業界全体で切磋琢磨し、市場そのものを大きくすることを重視し、これらの特許を他社ライセンスすることにしました。
その結果としてカップラーメン含むインスタントラーメンは今や世界に広がり、その売上数は年間約1230.7億食(2024年)にもります。仮に1食平均100円とすれば12兆円もの市場規模になります。
*年間の食数の引用元 一般社団法人 日本即席食品工業協会 HP:https://www.instantramen.or.jp/know/history
ライセンス料は売上高の3%程度が目安とされていますから、もし特許が生きていたら年間3000億円もの大変な金額になりますね。



寝ていてもお金が入ってくる!!



すでにインスタントラーメンの基本特許は期限切れですけどね
この自社実施のメリット・デメリットを上げると以下の通りです。
メリット
- 初期投資コストがかからない。
- 他社の販路を使用できる。
- 品自体の市場規模を拡大するのに有効
デメリット
- 自社実施に比べると最大利益は小さくなる
すぐにお金が欲しいなら特許権を売却して即現金
特許権は、財産として売買することができます。ここまで見てきたように、独占もライセンスも大きな利益を生み出す可能性がありますから、良い特許であれば高い値段で売れるのは当然です。
特許売却のメリットはまとまったお金が一度に入ってくることです。ただし、リスク・コストがない分、得られる利益の総額は小さくなるでしょう。
特許売却のメリット・デメリットを上げると以下の通りです。
メリット
- 初期投資コストがかからない。
- 一度にまとめてお金が入る。
デメリット
- 自社実施、ライセンスに比べると最大利益は小さくなる
そのほかの特許を取るメリット
また、そのほかにも特許取得にはいろいろとメリットがあります。
例えば、ベンチャーで資金調達したい場合、特許取得はかなり重要なファクターとなってきます。
投資家は、特許という確固たる知的財産を持っている企業を高く評価します。なぜならば、特許を取得するには特許庁の審査で合格しなければならないからです。いわば発明としてお墨付きをもらったのが特許発明というわけです。
また、ベンチャーの場合、従業員などの関係者が独立して似たようなアイディアの事業を立ち上げるリスクは常に存在します。そのような場合、特許がなければ、ほとんど同じ製品・サービスを真似されてしまいます。これは製品・サービスの開発に資金を投じる投資家からすればきわめて大きなリスクになります。
せっかく育てた事業の市場が他人に奪われてしまうかもしれないのですから、投資を受けるには特許の取得は必須ともいえるでしょう。



でも、本当に僕に発明ができるかにゃ。心配だにゃ



誰でもできますよ。その方法を教えます



ようし、金持ちになるぞ。生きていればそれで幸せなんて、それは動物の幸せだ。人間の幸せじゃない!



いや、あなた猫でしょ
次回はどんな発明が特許をとれる? みたいなテーマです。
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